Abandoned Cats
神様が僕を試しているのか、それとも他の何かが僕を事件に巻き込もうとしているのか分からないが、僕が雷魚釣りに出掛けると、何かしらのアクシデントが起きる。

一番最初のアクシデントは、幼なじみと初めての遠征をした時のことだ。

宿泊場所も決めず、数百キロも離れたフィールドにその幼なじみの車で雷魚釣りに出掛けた時のことだが、丁度、お盆の時期ということでとんでもない暑さの日が続いていた。僕たちが野池を転々とし新しいフィールドを探していた昼下がり、ある国道か県道の交差点付近の道路左側にある排水用の溝に、車にはねられたと思われる犬が一匹いた。暑さのためか、体に受けたダメージなのか、その両方かもしれないがひどくヨダレを流しながら座り込んでいた。僕たちは「アッ・・・」という声を上げ、その犬の脇を通り過ぎた後、どちらからということもなく、「あの犬、大丈夫かなあ」と続けた。

幼なじみが運転し、僕が助手席に座っていたのだが、しばらく進んだところで、運転していた幼なじみが「なんとかしなきゃ」と声にした。まさしく、心の中で僕たちは葛藤していた。僕は見過ごそうとしていた自分に恥じながら、その幼なじみに聞き返した。

「なんとかするって言ったって、どうするよ。拾うのか?」

「・・・・・・」

幼なじみは少し黙った後、保健所に行くのはどうかという提案をした。

お盆休みということで、保健所が対応するかどうか確信は無かったが、僕たちはその足でその田舎町の中心地にある役所に向かった。

お盆だったが、一応窓口に人がおり、僕たちはどこそこの交差点近くに重症を負った犬がいることを伝え、保健所か何かで対応できないかと訴えた。

しかし、その窓口業務の人は、人もいないし、そういったケースには対応できないという返事だった。

僕たちは、また葛藤した。見捨てるのか、それとも何か手を施すのか・・・。死んでしまうかもしれない犬を拾って医者に連れて行くことは、実際問題できない。でもそれでいいのか・・・僕たちは役所から車を出し、うつむいたまま釣り場に向かった。



しかし、釣り場ではあの犬のことが頭から離れず、釣りに集中できなかった。

「あの犬どうしたかな」

「・・・・・」

僕たちは、釣り場を移動する時にもう一度あの場所を通ってみることにした。

僕らはドキドキしながらその交差点を通過したが、あの犬の姿は無かった。きっと、誰かいい人が助けてくれたのだろう・・・僕らはやりきれない自分の心にそう言い聞かせた。


そしてその地方への遠征を毎年繰り返し、4年が経過したある年、また幼なじみと一緒に遠征をした。

僕たちは口には出さなかったが、その地方へ遠征をする度にあの出来事を思い出していたと思う。その年の遠征は夏の炎天下とは打って変わり、台風接近に伴う大雨に見舞われていた。当然、釣果も上がらず、毎年釣れていた90アップはその年は釣れることは無かった。僕たちは濡れネズミのように惨めな気分で予定を切り上げて帰途についた。

この遠征は僕が当時乗っていたホンダのインテグラで出かけていたのだが、カーナビも無く地図を見ながら数百キロの帰り道を走っていた。僕が助手席で眠りから覚めると、何やら渋滞に巻き込まれているようだった。

「道間違えた」

「ここどこだよ。XX環状線って書いてあるぞ」

「・・・・・」

僕たちは高速道路のジャンクションで道を間違え、夕方で混みあう環状線の中にいた。

「仕方ないからこの環状線を走って、XXXからXXXへ戻ろう。」

僕たちは渋滞している高速道路をノロノロと走っていた。すると、なんと、左側の防音壁の継ぎ目の真中辺りに雨に濡れて丸まっている子猫がいるではないか!

「おい!あれを見ろよ、猫じゃねえの?」

「そうだよ、子猫だよ!」

「おい、どうするよ」

「・・・・・・・・・。救出だ!」運転している幼なじみが言い出した。

「おいおい、それは俺が救出するってことかよ」

僕はあの時の犬に続いて、心のどこかで見て見ぬ振りをしようと思っていた。捨て猫を拾い、それを持ち帰るなんてできない・・・。どこかに逃がすといっても、どうやって・・・。ほんの一瞬だが頭の中で計算が働いてしまう。しかし今度もまた、幼なじみがなんとかしようという提案をしてくれた。僕が運転していたのならばそのまま通過したかもしれないが、幸運にも彼が運転していたため、迷うことなく車を止めた。僕は噛み付かれる恐怖があったので、足元にあった軍手をはめてその猫に後ろからそっと近づいた。



「おいおい、ひっかくなよ」

僕は猫に気付かれないように背後から両手を回し、サッと掴んだ。猫は振り向いて「シャーッ!!!」と叫んだが、僕は手を離すわけにはいかなかった。もし手を離したら、他の車に轢かれてしまうからだ。僕は半ドアになっている助手席のドアを足で開け、そのまま飛び乗った。猫は相変わらず「シャーッ!!」と威嚇していたため、僕は恐怖のあまりに猫を足元に置いた。すると興奮している猫は何を考えたのか、センターコンソールを跨ぎ、運転席の足元に入り、なんと、ダッシュボードの裏に入り込んでしまった。

幼なじみは驚いて、「ああああ・・・!」と叫んでいたが、後続の車のクラクションに耐え切れず車を恐る恐る発進させた。

「おいおい、どうするよ」

「なんで手を離すんだよ」



「だって、両手がふさがっていたらドアも閉められないし、第一、噛みつかれるのは嫌だよ」

僕たちは、その猫がメーターパネルやその他電装品で感電したり、何かトラブルを起こすのではないかと心配しながら渋滞の中を走った。そして次の出口で降り、近くにあったスーパーマーケットの地下駐車場に車を停めた。

「さあ、どうする」

僕たちは懐中電灯を使って恐る恐るダッシュボードの裏を覗き込んだが猫が見つからない。必死になって捜索し、ドライバーを使っていくつかのパネルを外してやっとのことで猫を発見した。その猫は右側のエアコンの噴出し口の裏辺りに頭から突っ込んでいた。

幼なじみがその猫をゆっくりと取り出し、スーパーから持ってきたダンボールの中に入れた。猫は観念したのか、おとなしくなっており、汚れて濡れた毛はボロ雑巾のように見えた。僕たちはダンボールにタオルを敷き、そこにスーパーで購入した牛乳を入れた。

「さあ、どうする」

「ここからが問題だぞ。連れて帰るにも俺の家じゃあ飼えないし・・・」

「俺だって飼えないよ」

僕たちは、やっちゃいけないと思いつつ、そのスーパーの入口の人目につく場所にその猫をダンボールに入れたまま置いていくことにした。回りの人がジロジロ見ていたが、構わず実行し、足早にその場を離れた。

僕たちがしたことは善意なのか・・・哀れみを感じて手を差し伸べたはいいが最後まで責任ある行動を取ることはできなかった。それならば、あのまま見捨てたって同じじゃないか・・・僕たちは自分に問いかけた。でも、あの高速道路にいたら死んでしまう可能性が高かったけど、あそこから連れ出したことはあの猫の命を救ったことになるのでは・・・。僕たちは、少しでも自分の救いになるように考えながら、長い道のりを走って帰路についた。


それから3年後。僕は今迄行ったことの無い地方へ単独で新規開拓が目的の遠征に出ていた。あの連続したアクシデントのことはすっかり忘れ、遠征先での雷魚釣りに没頭していた。そんなある日の夕方、僕は新しいフィールドを探しながら車を走らせていた。すると、水門のある付近に自転車が3−4台止まっており、少年達がバス釣りをしていた。僕は雷魚の情報が得られるかもしれないと思い、車を停めて彼らに話しかけた。

「この水門の反対側は水草が多く、バス釣りはできないけど雷魚はいるよ」

僕は喜び勇んでタックルを取り出し、その水門の反対側への侵入経路を探っていた。そして、ふと、その水門の下の方を見たら、発泡スチロールの板の上に薄汚れた子猫らしきものが見えた。

「おいおい・・・またかよ・・・」

僕は大きな溜息をつき、釣る意欲が失せ、なぜこんなにアクシデントに巻き込まれるのか考えてしまった。そんなことを考えてはいけないが、その猫が死んでくれていたら・・・とちょっとだけ期待した自分がいた。僕は確認のためにロッドの先でその子猫らしき生物の背中を突っついた。するとその子猫は頭を動かし、なんだなんだと言いたげに振り向いた。



「おいおい、なんだよその目はよー。この俺にどうしろって言うんだよ」

僕は、近くにいた少年達を集め、僕が救出するので手伝って欲しいと訪ねた。その猫までの距離は約2mあり、しかもコンクリートに囲まれており、水流もあり、水門のすぐ後ろは大きな土管の入口になっている。もし手や足を滑らせて滑落すれば僕の命だって危ない。僕は水門自体につかまって下に降り、片手で猫を掴んだ。猫はおとなしくしてくれ、上にいる少年に僕は猫を手渡した。猫も僕も落水することもなく、救出作業は成功した。

汗びっしょりになりながら猫を救出すると、少年達が拍手をしていた。僕は少年達にこの猫を引き取ってくれないかと聞いたが、全員消極的な返事しかくれなかった。僕はどうしようか悩んだが、選択肢は無い。子猫が一人で生きていけるわけが無いので誰かに引き取ってもらうしかないのだ。少年達に猫を入れられるダンボールを拾ってこさせ、そこへ猫を入れた。そして、その水門の200mほど向こうにある民家の軒先にそれを置くことを思いついた。問題は、それを誰が実行するかだ。

「なあ、誰かあそこの家の玄関の前にこれを置いてきてよ」

「えー!俺は嫌だよ」「お前やれよ」「お前こそやれよ」

そんな議論があったが、程なくしてある少年がノミネートされた。そしてその少年が自転車にダンボールを乗せ、その民家に向かって自転車を進めた。僕と、その他の少年達はその自転車に乗った少年を見送り、遥か向こうにあるその家の前にダンボールを置くのをしっかりと確認した。

戻ってきた少年に、「よくやったな。誰かに見つかったりしなかったか?」と聞いた。

「うん、大丈夫。ちゃんと置いてきた」

僕たちは良い事をしたという認識は無かったが、できる限りのことはしたという、ある種の満足感を得た。


僕はその翌日の早朝、あの水門の反対側のカバーエリアで釣りをするためにあの場所に向かった。そして、あの猫が気になっていたので例の民家の前を車で通り過ぎてみた。するとそこにはあのダンボールが無かった。きっと、あの家の人が良い人であの猫を可愛がってくれているだろう・・・僕はそう思う事にした。その日の午前中、そのフィールドで釣りをしたが大した釣果も無く昼前にそのフィールドを後にした。あの少年達と言葉を交わしたいなと期待していたが、結局姿を見せなかった。

その翌年の夏。僕は昨年とは全く違う地方へ単独で遠征していた。お腹がすいたのでコンビニの駐車場でパンをかじっていた時、どこからともなく今度は小熊のような子犬が現れ、僕の足元にやってきた。

「おいおい・・・お前は何だよ。他にも人がいるのだから、あっちへ行ってくれよ。頼むからさー」

僕は食べていたパンをそのままその犬にあげ、その犬がパンを食べている間にその場から足早に車で逃げた。


それから4−5年が経過するが、その後はそういったアクシデントに遭遇していない。
でも、またいずれ遭遇する覚悟はできている。問題はそこで自分がどういう行動を取るかということだ。それは非常に辛い決断になるのだろう。でも、できる限りの対応をしなければいけないと自分に言い聞かせている。
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