Expedition
お盆休みを利用して田舎に帰省していた8月の中旬、大型の台風がちょうど日本列島を横断しようとしていた時だった。僕はこのお盆休みを利用して幼なじみと近所の野池に雷魚を釣りに行く予定を立てていたので、長い雷魚ロッドとリュックをかついで新幹線と在来線を乗り継いで実家に帰省していた。しかし、釣行を心待ちにしていたその願いとは逆に台風の動きは遅く、僕達の釣行予定に影響が出そうだった。

案の定僕たちは台風が過ぎるのを家の中でじっと待つことになってしまった。一緒に釣りに行く予定をしていた友達と電話で話し、台風が過ぎるまで延期しようということにした。僕はすることもなく、ただぼうっとしながらテレビを見て台風が過ぎるのを待っていた。そんな暇を持て余しているとき、台風が来る直前に釣りに出かけていたもう一人の近所の友達から連絡があった。

「先週XXXに雷魚を釣りにいったけど、スゴかったよ。30発くらい出たね。ヒシが立ち上がっていたから全然食い込まなかったけど、アタックなら出まくったよ。」

「そんなに出るかよ」

「出るって。お前は行ったことがないから知らないけど、至る所に野池が点在していて、そのどれもにカバーがあって雷魚がいるんだよ。」

確かにその地域には行ったことがなかったが、大型雷魚が釣れるという噂だけは聞いていた。しかし、数百キロも離れたところに釣りに行く「遠征」ということを経験したことのなかった僕にはピンと来ない話だった。僕は「ふーん」と頷きながらその友人の話を他人事のように聞いていた。


次の日には台風が通り過ぎ、僕は約束していた友人と近所の野池に釣りに出かけた。早朝から数ヶ所の野池を周ってみたものの、アタックすら取ることもなく一日が過ぎた。反応の無い日はとくに珍しくなく、地元のフィールドでは当たり前のコンディションだった。しかし、友人から聞かされた30発のアタックが頭から離れず、行ってみたいと思い始めていた。

「なあ、あいつか言ってたけど、XXXへ行けば30発くらい出るらしいよ」

「30発って言えば昔のXXXみたいだね。ここのところそういった釣りをしてないね」

「おまえ休みはいつまで?行ってみようか?」

遠征というものをしたことがない僕達は、そのフィールドを想像することすらできなかったし、費やす時間や労力がまず頭に浮かんでしまい、損得勘定をしなければ決められなかった。それに、大型台風が通過した直後ということもあり、行ったとしてもフィールドが荒れ果てているのではという不安も大きかった。しかし、そんなマイナスの要素は僕たちの障壁にはならなかった。釣れても釣れなくても行ってみたい、自分の目で確かめたいという思いの方が勝ってきていた。


あくる日の早朝に友達が車で迎えに来た。大型の台風が通過した直後なので、釣りにならない可能性が十分考えらるので、とりあえず行ってみてダメならそのままトンボ帰りをする予定にした。そのため、宿泊先も決めずに釣り道具だけを持って出発した。

早朝に出発したにもかかわらず、お盆の帰省ラッシュの影響で道路が混雑しており、高速道路は至る所で渋滞していた。僕達は渋滞を避けるために高速道路を下りたり、乗ったりしながら目的地へ急いだ。しかし、そんな僕達のはやる気持ちは空回りし、時間はどんどんと過ぎていった。目的地へつく頃には台風が通過した後の澄み切った真夏の青い空はオレンジ色に染まりつつあった。

大切な時間の大部分を渋滞しているアスファルトの道路の上で時間を費やしてしまったが、なんとか夕暮れ前には目指していた野池に到着した。そして、到着するなり僕は声を上げた。

「おおー!すげー。こりゃー絶対釣れるよ」

「苦労して来た甲斐があったなあ」

「よし、急いでタックルをセットしよう」

僕達は大急ぎでタックルをセットし始めた。そんなに急いだってほんの数秒しか変らないだろうが、その一瞬すら無駄にしたくないという思いで、猛スピードでタックルを車から降ろした。はやる気持ちと興奮のために手元はいささか振るえていた。僕はこの日のために購入した新品のカルカッタ400を使おうと思っていたが、巻いてあるラインがPE8号だったため、目の前に広がる立ち上がったヒシのカバーでは心細く感じたので10号のPEラインが巻いてあるABU6500Cをグリップにセットし、ラインをガイドに通した。そしてフロッグは夕マズメでも見易いピンクのマンズ・ラトリンラットをチョイスした。


野池の古びた、いかにも何十年も前に工事したであろうコンクリート護岸の上を歩きながら、200mほど向こうに見える厚い菱のカバーの中にあるオープンスペースに目をつけた。こんな雰囲気抜群のフィールドでキャスティングをするのは何年振りかのことだった。

ここ最近はスレきったライトカバーのフィールドしか味わったことのない僕達は、セオリーどおりに近距離のポイントから攻めるのではなく、最初からロングキャストをして沖合いにある一番「おいしそうな」ポイントを先を争うように攻めた。


期待通りに、ほんの数投で友人のフロッグにアタックがあり、最初の1匹が掛かった。沖合いの厚いカバーから雷魚を引きずってくる間、待ちきれない僕はすぐ隣でキャストをした。すると僕のその1投目にアタックがあり、2人でダブルヒットとなった。僕が沖合いの厚いカバーに巻かれて菱団子になった雷魚をポンピングしている間に友人が先にランディングに成功していた。僕は左手でロッドを支えながら右手でウェストバックからカメラを取り出し、友人の記念すべき遠征一匹目を写真に収めた。

その後、夕暮れ直前に僕が大型を1本追加してその日は終了した。


結局初日には1ヶ所しか行くことができなかったが、噂どおり「釣れる」ところだと感じた。初めて訪れたにも関わらず夕マズメの2時間程度で大型を筆頭に2人で3本釣れたという結果よりも、青々としたカバーのあるフィールドコンディションが僕達に強烈なインパクトを与えた。

雷魚釣りを始めてからというもの、僕たちが見てきたフィールドは年を追うごとに荒廃を続けており、この釣りに対してはネガティブな印象しか持っていなかった。しかし、この地域を訪れたことによってその考え方は変った。あきらめかけていた気持ちが吹き飛び、これからも雷魚釣りを楽しめるという期待感が沸き起こってきた。

辺り一面に暗闇が訪れ、宿の手配を全くしてこなかった僕達はこれからどうしようかと話合った。日帰りのつもりで出かけていたが、強烈なインパクトを受けてしまった僕達はこのまま帰ろうなんてこれっぽちも考えていなかった。街へ出てビジネスホテルを探そうかとも思ったが、今から探す気力もなく、面倒くさいので近くにあった公園で野宿をすることにした。


翌日もその翌日も快晴だった。僕たちは朝4時から夜の7時までの15時間、暑い夏の日を一瞬たりとも無駄にしないように無我夢中で釣りをした。いくつもの野池を周り、場所や時間帯に関係なく、ここぞと思うポイントで豪快なアタックを取ることができた。フロッグを40mほどキャストし、速いテンポで目に見えるカバーの濃淡部分を攻めていけば、必ずと言っていいほど雷魚の反応があり、アタックは簡単に取れた。そしてフックアップに失敗しても悔やむことも無く、次から次へと反応があった。フックポイントが甘くなったり、ボディとのバランスが崩れていても気にすることもなく、ボロボロになったフロッグで釣り続けた。バラしてもすっぽ抜けても、フックアップに成功しても、大型でも小型でも笑顔が耐えることがなかった。

どの野池に行っても他の雷魚マンに出会うこともなく、昔みたく友人と2人貸切状態で暑い夏の雷魚釣りを満喫した。



僕たちは真っ黒に日焼けし、2日間ちょっとという短い時間で、90センチオーバーを筆頭に何匹かの雷魚を釣ることができた。大型を狙っていた訳ではなく、雰囲気のいいフィールドを転々としながら雷魚釣りを楽しんだ結果としてたまたま90センチオーバーが釣れたとしか感じていなかった。その後、僕たちは年1回の夏の遠征ということで、夏休みを利用しては毎年の恒例行事としてその地域への遠征を楽しむようになった。

たくさん釣れても釣れなくても、90アップが釣れても釣れなくても、次の釣行は翌年の夏までとっておくことができるほどの心の余裕もあった。


それから何年もの月日が経った今でも、同じペースでその幼なじみと釣行を重ねている。毎年1回の雷魚遠征、あの時みたく心の底から「楽しい」と思えることは残念ながら無くなってしまったが、これから先も同じように釣行を続けていくと思う。

フロッグをブン投げないと夏が来たと思えない。僕達にとって雷魚釣りは夏を感じるために無くてはならない恒例行事だ。


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