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ある地方へ雷魚を釣りに行った帰り道、高速道路に乗る前にガソリンを補給しておこうとShellを探した。なぜShellなのかというとそれはもちろんX-cardでガソリン代を安く済ませたいからだ。
釣り場に一番近いインターチェンジに向かう途中でShellを探したが1件も見つからず、仕方ないので一般道を次のインターまで下りながら探すことにした。

「田舎はこれだから嫌だな」

と愚痴をこぼしながら車を走らせた。

地図には2ヶ所ほどShellのマークが書かれていたが、そこへ行ってはみたものの閉鎖されており、なかなか目的のShellが見つからなかった。

「雷魚フィールドの次はガソリンスタンド探しかよ」

と益々ブルーな気持ちになりながらも、半分は意地になってShellを探した。
そして次のインターまであと少しというところまで来た時、地図上にShellのマークを見つけた。
そのShellは小さな町の中にあるようだ。

「こういった片田舎の小さなスタンドはカードが使えないんだよな」

と思ったが、それ以外にShellが見当たらないため、とりあえず行ってみることにした。

コンクリートでできた古い小さな橋を渡り、路地を1本入ったところで黄色と白のペンキで塗られたコンクリートの壁が見えてきた。

「こりゃカードは使えそうもないなあ」

それは昔からそこにずっとあるのであろう古い小さなガソリンスタンドだった。
スタンドの中に車を入れると、店の中から体の大きな青年が出てきた。いらっしゃいませ!と言って元気良く走って来るわけでもなく、ゆっくりと歩いてこちらに近づいて来た。

「カード使えますか?」

「使えますよ」

「じゃあカードでハイオク満タン。それとタイヤの空気圧をお願いします。前が2.3で後ろが2.1」

やっとガソリンが入れられるなと安心しながら給油口を開けた。その青年が給油を開始しようとしたとき、おばさんがスタンドにやってきて何やらその青年に話し掛けてきた。言葉が訛っているので何を言っているのか聞き取れないが、どうやら灯油を頼んでいるようだ。

「先にこっちの灯油を入れていいかなあ?」

「ええ」

初秋といえどもこの地方では朝晩冷え込むようで、この時期から灯油が売れるようだ。
その青年は地元の方言でそのおばさんと大きな声で何やらしゃべりながら作業を続けていた。その話し振りからして顔馴染みの近所の人のようだった。
その青年以外は店員が見当たらないので、彼が一人でお店をやっているようだった。給油までに時間が掛かりそうだったので、その間に私はトイレを借りることにした。

「トイレはどっちですか?」

「スタンドには無いんだぁ。そこに見える家のトイレを使ってくれんかぁ」

どうやらその家はこのスタンドの持ち主の家のようで、トイレは昔の家が皆そうだったように外に設置されていた。トイレは木造で、便器は無く、壁に向かっておしっこをすると下の溝を流れていくという昔ながらのトイレだ。そして手を洗うときは水道ではなく、天井からぶら下がっているプラスチックの容器に溜められている水を使うのだ。それは昔懐かしい手洗いシステムで、容器の下部にある金属の口を押さえて、そこから流れ出てくる水で手を洗うというものだった。
それ以上に私の胸に響いたものがあった。それは土間のある大きな家だった。それを見たとき、幼い頃に行った親戚の家にあった土間を思い出した。いかにも日本家屋という雰囲気が漂ってくる大きな家を見るのは本当に久しぶりだった。

車に戻るとその青年が私を待っていたかのように話し掛けてきた。

「レガシーっすか、いいっすね。これターボっしょ。速いっすか?」

「速くないですよ。オートマだし。来る途中の高速でアリストやGTRなんかに思いっきり負けましたよ。所詮は2リッターだから。あそこに停めてあるFD乗ってるんですか?だったらあれのほうが全然速いですよ」

「あれは代車。自分のは今修理に出してるんだぁ」

「何乗ってるんですか」

「FCのカブリオレさ」

そして青年は自慢げに、そしてこと細かく車の説明をしてくれた。

「それよりXXXXから何しに来たぁ?」

「釣りですよ、釣り。雷魚釣り」

「雷魚?そんなの釣りにわざわざかい。そんなに好きならこっちへ引っ越して来て住んでしまえばぁ?若い人は皆、町を出ていってしまったから人が減る一方だし。俺はこのスタンドの跡を継ぐためにずっとここにいる馬鹿息子だ。あはははは」

色白で気さくなその青年は人懐っこい人柄をそのおおきな体全体から醸し出していた。

タイヤの空気圧のチェックも終わり、伝票にサインをした。そしてシフトレバーをDレンジに入れて出発しようしていると、その青年が「ちょっと待ってて」と言い残して走っていった。

そして缶コーヒーを持って戻ってきて、「ガソリンを売った儲けが無くなる」と言いながらそれを私にご馳走してくれた。

「これ俺の名刺。今度また来る時は寄ってくださいよぉ。絶対ですよ」

そう言って差し出されたその青年の名刺の肩書きはこう書いてあった。

“RX-7カブリオレ ファイナルバージョンオーナー“

名刺の肩書きにこんなこと書いてるなんてすごいなと思いながら、缶コーヒーのお礼を言い、スタンドを後にした。
そして一面に広がる田園風景に沈んでいく奇麗なオレンジ色の夕日を見ながら車の窓を開けて走った。

その日の深夜、帰宅してみると留守電にカード会社から伝言が残っていた。どうやら例のShellのスタンドが連絡を取りたがっているようだ。明くる日、スタンドに電話を入れるとあの青年は留守だったが違う人が出た。

「空気圧をチェックした後、エアバルブのキャップを付け忘れたようです。すみません。住所を教えてもらえませんか?至急送ります」

とのことだった。

それから2日後、宅急便が届いた。送り主はあのスタンドなのだが、どう考えても荷物が大きすぎる。包みを開けると中にはその地方のワインが2本と、封筒にキャップが4つ入っていた。

後日お礼の電話をその青年に入れると彼は「これも何かの縁だからぁ」と言っていた。あらためて田舎の人の温かさに触れた気がした。

そして「夏になったら必ず行きますから」と約束をした。

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