Our First Fishing
夏の終わりのある日曜日、僕は2歳半になる息子を連れて自宅から車で30分くらいのところにある小さな池にザリガニを釣りに出掛けた。

その池は、子供達を連れて公園に遊びに出掛けた時に見つけたのだが、最初は自分がバス釣りができるかどうかに興味があった。というのも、その池を最初に見つけたとき、数人の少年がルアーを投げていたからだ。都会に住む僕は手軽にバスや雷魚を釣りに出掛けることができないので、子供達を連れて公園に遊びに行くついでに、その池で軽くルアーをキャストして楽しんでいた。

その池はとても小さく、軽く投げても対岸に届いてしまうほどだ。そんな池でも、本格的な装備で狙っている人も多く、確かに40cmアップのバスが悠々と泳いでいるのをよく見かける。

しかし、僕はそんな池で真剣に釣りをする気分にはなれないので、池の周囲を散歩したり、子供達が池に石を投げ込んで楽しんでいるのをただ見ているだけということが多い。

そんなある日、一組の家族連れが真剣な表情で水面を覗き込んでいる姿を見かけた。よく見れば、木の枝にタコ糸を結び、その先にはスルメかサキイカが付けられていた。

僕は「ああ、ザリガニ釣りか」と直ぐに気付いて、近くに寄ってみたところ、彼らのバケツの中には10匹ほどのアメリカザリガニが入っていた。

生命感をあまり感じない人工的で不自然な都会の中の池だが、ザリガニはたくさん居るようだ。

そのバケツを子供達に見せると、予想どうり大喜びで、ザリガニを知らない彼らは「エビ、エビ!」と叫びながらバケツを覗き込んでいた。「エビじゃなくてザリガニって言うんだよ」と教えると今度は「ジャリガ二、ジャリガ二!」と叫びながら更に興奮したようで、手にもっていた石をそのバケツに放り込み始めた。横にいた僕は慌てて子供達をなだめ、その場から離れた。

そんな感じでザリガニと初めて出会ったのだが、それからは、絵本や幼児用の本などにザリガニが出てくると「ザリガニちゅかまえる、ザリガニちゅかまえる!」とゼスチャーを交えて訴えるようになったため、そのザリガニ釣りをやってみようということになった。


その池は秋の始まりを告げているかのように水の色も悪く、動きもない。岸際には茶色い水草の枯れて沈んだようなものが堆積しており、生命感を感じさせないフィールドコンディションとなっていた。もちろん、夏に見かけたザリガニ釣りの親子もおらず、バス狙いのアングラーもいない。夏の渇水の影響が残っており、水位もかなり下がっていた。

そのフィールドコンディションから僕は本当に釣ることができるのか心配になっていた。息子の初めての釣行でボウズというのはどうしても避けたい。

彼を車のチャイルドシートから下ろし、車のリアハッチを開けてタックルの準備を始めた。ロッドは2ピースのスピニングロッドの先端部分を使用し、雷魚用のPE8号を1.5mほど結んだ。また、ポイントに正確にアプローチするためにPEの先にはダウンショット用のシンカーを取り付けた。エサはコンビニで購入した一袋100円のサキイカだ。

僕はこれまでザリガニ釣りをしたことが無かった。子供の頃は玉網を使ったザリガニ獲りはいつもやっていたが、エサを付けて釣るなんてことはしたことが無かった。ザリガニなんて釣るよりも捕まえた方が早いという理由だったと思う。

とにかく、彼と僕の初めてのザリガニ釣りがスタートした。



ザリガニはいったいどこにいるのか?

多分、岸際の浅いところにいるだろうということは想像できていた。岸から50cm以内の水深30cmに満たないところを狙えばいいだろう。僕は息子が池に落ちないように気を配りながら、水面を覗きこんでザリガニを探した。基本的にはサイト狙いだろうと思っていたが、一向にザリガニを発見できないでいた。

おかしい・・・ザリガニがいない。

仕方ないので、岸際に敷き詰められている石の中でも変化のある(ザリガニが隠れやすいような)ところを探してエサを投入した。しかし、底一面にある、枯れた水草のようなものによってエサが隠れてしまい、更にはそれがエサにまとわり付いてくる。

こりゃヤバイな。

僕は一抹の不安を感じながらエサを投入し続けた。5分くらいそんなアプローチを続けていた時、投入していたエサが石積みの奥に引き込まれて行った。

ザリガニだ!

僕はザリガニがエサを持って石積みの奥に持ち込んでいるのを確信し、そっとロッドを立ててみたが、「ブルッブルッ」という引き込みを感じた後にフッと軽くなった。

意外と難しいな

ザリガニ釣りが初めての僕は釣り上げるコツが分からなかった。先ほどアタリのあったポイントにエサを再度投入し、もっと時間をかけて喰い込ませてから引き上げた方がいいと思い、今度は十分に喰い込ませてからロッドを立てた。すると予想どうりにザリガニは両手でサキイカを挟んだまま水面まで上がってきた。問題はここからだ。このまま抜き上げるとエサを離すだろうと思い、僕は慎重に水面を滑らせるように手前に寄せて、ネットですくった。

よっしゃ!



僕は初めてのフィールドでファースト雷魚を釣った時のように興奮した。もちろん釣れたことも嬉しいが、それよりも息子の前で父親の威厳を保つことができたことの安堵の方が大きかった。

それまで彼はネットで水面を叩いたり、ゴミをすくって遊んでいたが僕がザリガニを釣り上げた姿を見た後は自分もロッドを持ちたいとせがみ始めた。僕はロッドを彼に持たせ、ザリガニの居そうなポイントへエサを投入させてやった。しかし、投入してザリガニが喰い付くのを待つことができないため、彼はエサを直ぐに引き上げようとする。僕はそんなせっかちな彼を制し、ザリガニが居そうな石積みの付近を丁寧に探るように彼の腕をサポートした。するとすぐに先ほどと同じようなアタリがあり、小型のザリガニが喰い付いた。僕は彼の腕を持ち、そっとザリガニを抜き上げた。

僕のサポートがあったのだが、一応、彼がロッドを持ち、ザリガニのアタリを感じ、抜き上げまでをこなした。釣り上げたザリガニをバケツに入れると、彼は上から覗きこんで興味深そうに見ていた。そして一指し指で触ろうとした時、ザリガニが勢い良く尾ビレをはたきながら水しぶきを上げて後退した。彼はビックリして指を引っ込めたが、その突然の動きに恐れをなしてしまい、驚きの表情を浮かべて僕の顔を見上げた。



パパやって

彼が僕にザリガニを触るように要求したので、僕はそんなの簡単だよと余裕をもってザリガニの背後から手を差し伸べた。背中の甲羅を親指と人差し指で挟み、ほらどうだい?と彼の顔の前にザリガニを差し出したその時、ザリガニのハサミが予想以上に後ろに反り返り、僕の人差し指を見事に捕らえた。

痛っ!

僕は思わず声を上げ、ザリガニを振り落とした。しまった・・・そう思ったが既に手遅れで、一部始終を見ていた彼はザリガニが怖いと言い出してしまった。


その後しばらく釣りを続けたが全くアタリが無かった。彼もザリガニ釣りに飽きてきており、ロッドを振り回したりティップで底をつついたりし始めたため、その日の釣りは終わりにすることにした。僕は近くにいたザリガニ釣りをしているまだ一匹も釣れていない少年に釣り上げた2匹をあげた。

その日から彼はザリガニを絵本やテレビで見る度に「パパ、手、挟まれた」と言うようになり、僕の失態をその後もずっと覚えている。

記念すべき初めての釣りが彼にとってどんな経験となったのだろうか?僕と同じように釣りが好きになってくれることを願っているが、まさか、彼の記憶には手を挟まれて痛がっている僕の姿しか残っていないなんてことはないだろうか。

でも、自分の息子と初めて一緒に釣りに行ったこの日のことは僕にとって忘れることのできない記念日となった。


Back to earnest column Top