Make my days
1985年の9月の後半だったと思う。いつもの仲間3人で地元のクリークへ雷魚を釣りに行った時のことだ。

夏の盛りを過ぎたので、朝晩は秋の訪れを感じるように涼しくなってきていた。フィールドはそんな秋の気配など全く関係ないかのように、草木は青々と茂っていた。その日の僕たちは、背丈ほどに伸びた葦が岸沿いにうっそうと茂っていて、水面はウキクサとキンギョモなどでビッシリと覆われているいつものクリークへ朝一番に入ることにしていた。その場所は、僕達のホームグラウンドと言うべきところで、行く度に雷魚を釣ることができた。それに、

「出るぞ」と思うところで必ずと言っていいほどアタックが出た。

しかしその日に限っては、なぜか雷魚の反応は悪く、フィールドの雰囲気とは逆にアタックが全く取れなかった。

岸際に点在する、水面の至る所から雷魚の気配を感じるものの、アタックが取れない私は、そのクリークの最上流部に入るため、友人たちとは一人離れて、田んぼの脇のあぜ道を朝露に濡れた葦をかき分けて歩いていった。

その年の初めにお年玉で買ったマグナムハスキーは朝日に照らされてきれいなブラウンに輝いていた。そしてポイントに到着すると、そのマグナムハスキーの先にぶら下がっている緑色のスナッグプルーフフロッグを、当時一番釣れると信じていた黒にチェンジした。


最上流部に入って1投目。対岸のブッシュの中にフロッグを投げ込み、岸沿いの浮芝(イネ科のブッシュ)の上を転がし、その浮芝とカバーの際でポーズを入れ、細かいアクションで丁寧に探ってみるが、他のポイントと同様に全くアタックが出ない。僕はフロッグを回収してもう一度同じ浮芝の際を狙おうと思い、15mほどしかない川の中央部をズルズルと早めにリーリングしてきた。そして手前5mほどにさしかかった時、僕は雷魚の気配を感じたのでフロッグをストップさせてみた。

しかし何事も起こらない。カバーが揺れたわけでもないので「気のせいかな?」と思いながらも軽くワンアクションさせた。すると、そのとたんに

「バフッツ!」

と雷魚がアタックしてきた。

「うわ!出たよ」

と、ビックリしながらも前かがみになってフッキングの体制に入ったが、フロッグは消えていない。そのアタックを境に僕の周りから音が消え、心臓のドクドクという鼓動だけが聞こえていた。焦らないように自分に言い聞かせ、次のアタックを誘うためにポーズを入れた。ポーズと言ってもその大きなアタックのためにウキクサとキンギョモのカバーには20cmくらいの穴が空いており、その穴の中でフロッグが流されていく。穴のエッジでフロッグが止まり、2、3秒ほど待った後、垂直に浮いているスナッグプルーフの鼻先が90度ほどお辞儀するように、もう一度軽くアクションさせた。するとまた

「バフッツ」

と出た。口腔の広い大型雷魚の独特な重低音のアタックだ。しかしフロッグの黒い鼻っ面は水面から出たままだった。

「黒いフロッグは見えんのかなあ?」

とカラーチェンジをしたことを少し後悔しつつ、もう一度ポーズを入れて、再度軽くお辞儀をする程度のアクションを加えた。すると、

「バフッツ!」

期待通りに3回目のアタックが出た。そして今度はフロッグが水面から消えた。僕は「1,2,3」としっかりと数え、ラインをスラッグを取りながらロッドとラインが一直線になるまで倒し、後ろにのけ反るように思いっきりアワセをくれてやった。次の瞬間にガツンという感触と重量感が伝わってきて、大きな雷魚がかかっていることがすぐに分かった。



興奮のあまり、どんな壮絶なファイトがあったのかは、はっきりとは思い出せない。ただ、夢中でリールのハンドルを回したが、ドラグが滑ってしまいクルクルと空回りしてしったので大慌てでドラグを増し締めし、必死になって寄せた。

足元まで寄せたが、手前には浮芝があるし、すぐ後ろは田んぼ。誰かにランディングを頼もうと周りを見回したが誰も近くにはいないので、バレるなよと神に祈りながらラインを手繰り寄せ、雷魚のエラに手を入れてランディングした。雷魚を田んぼ脇のあぜ道に横たわらせたと同時に、無音状態だった僕の周りから音が聞こえてきた。

その雷魚は85cm。初めて釣った80cmを越える雷魚だった。

その後、場所を移動しながら60−70cmクラスを3本追加した。友人達が「今日はお前の日だな」 と羨ましがったこの日の釣果は丸一日やって4本。当時の僕達にとっては大漁に値する釣果だった。


不思議なことに昔の出来事は、色や匂い、音までも事細かく思い出すことができる。それに反してここ最近釣った魚の記憶はそれと比較すると明らかに薄い。

今よりもたくさん釣れたわけでもないし、大型がたくさん釣れたわけでもないのにその当時のことはよく覚えている。

しかし、大人になってしまった今では、そういった「思い出」と言えるような記憶が少ないことに気付く。大人になった僕たちは欲張りになり、常に「数」も「型」も狙ってしまう。そして、それが達成できなければ満足できないからだろう。

あの頃のフィールドはもう無い。でも、1匹釣れただけでも大満足していたあの頃の自分に戻ることはできると思う。


Yellow poppers

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