Mystic Moment
NHKのテレビ番組で四万十川のアカメのことをやっていた。アカメの生態は謎につつまれており、一体どのような行動をとっているのか全く分からないため、水中カメラでその謎を解き明かそうという番組だった。水深が7mくらいある深い淵に潜り、幻と言われるアカメを探すと、彼らは直ぐに姿を現した。いきなり現れたそのアカメは体長が1mを超えており、更に驚いたのは、彼らが10匹くらいで群れをなしていたのだ。そして先頭を泳ぐ1匹が急反転した瞬間に残りのアカメも反転し、その時に大きな衝撃音が響いていた。地元ではアカメのいる淵からは音が聞こえるという言い伝えがあるらしく、カメラはまさしくその瞬間を捉えていた。
自然界の生物の生態は我々人間はそのほんの一部しか知らない。雷魚についても同じだろう。単独でカバーの下に隠れて捕食機会を待っている・・・本当にそうだろうか?ひょっとしたらアカメのようにメーターオーバーが群れを成しているかもしれない。

そんなアカメの生態を見て、僕もそれに通ずる体験をしたことを思い出した。


長い雷魚釣りの経験の中では、何度か神秘的な雰囲気を味わったことがあるが、あの時はまさに釣りキチ三平のハイライトシーンのような状況だった。いつもの釣行においても雷魚の気配を感じることはあるけれど、あれほど雷魚の存在や捕食してくる予感、ざわめいているような雷魚シンパシーを強く感じたのは初めてだった。また、誰かのフロッグに超ド級の雷魚がアタックしてくる確信があった。

ある地域のフィールドへ遠征をするようになった二年目の夏、その時もいつもの仲間と真夏の炎天下での雷魚釣りを楽しんでいた。釣行すれば必ず誰かが90アップを釣ることは分かっていたので、どのフィールドに行っても「今度はオレの番かもしれない、いや、今度こそオレが釣る」なんて気合を入れて釣る必要もなく、適当にフィールドを周っていれば誰かに「釣れる」という感じで、誰もがリラックスして釣行していた。


その時は全行程が快晴の炎天下で、気温も常に35度を超えるような猛暑だった。しかし、未だ雷魚ブームが来る前だったため、どのフィールドも貸しきり状態で釣りができ、真昼間でも水通しの良いポイントを攻めればアタックを取ることができた。晴れてさえいればいつでもどこでも釣れるという状況だった。僕達は、自分達のペースで釣り歩き、85センチくらいまでの雷魚を含めて、それぞれそれなりに釣果を得ていた。

しかし、3日間が過ぎても期待していた90アップが誰にも釣れず、今回は釣れないかもしれないという気持ちになっていた。どのフィールドもカバーの状態は良く、雷魚もどこからでもアタックしてくるようなコンディションだったけれど、大型雷魚の気配やアタックを得ることはできていなかった。



そして最終日の夕方、僕達は大型が出るであろうと期待しているフィールドを最後に選んだ。そこは移動中に偶然発見した規模のある野池で、ほぼ全域にわたってヒシがカバーを形成しており、コンクリートの堰堤や葦島、変化に富んだ地形の未護岸のエリアなどどこを攻めても「出そう」なところだ。そして圧巻は、岸から遥か遠くの池の中央あたりで、時折「水柱」が上がるのだ。それはまさしく雷魚の捕食もしくはライズであり、一体どれくらいのサイズなのか見当もつかないほど凄いものだった。僕達はその水柱に魅了されてしまい、そのフィールドに通えばいつかはあのサイズの雷魚が自分のフロッグに喰いついてくれるのではないかと夢を抱いていた。だから、マズメ時はもちろん、今回の最後もそのフィールドで締めくくろうと計画した。

午後4時過ぎにフィールドに到着し、仲間と一緒にキャストを開始した。7月の午後4時といえばまだ陽も高く、気温もかなりのものだが、その時は不思議と空は薄曇りになっていて、風が強めに吹いていた。僕達は小さな流れ込みのあるオープンスペースと隣接するヒシのカバー周辺を攻めようとしていたが、風が吹いていてオープンエリアは波立っていた。空の雲は次第に厚くなってきて、夏の太陽はすっかり隠れてしまった。炎天下で釣りを続けてきた僕達はその曇った天候を歓迎したが、風が邪魔してフロッグの操作がうまくできなかった。
あと1時間くらいしたら帰路につかなければならないと思い、半ば諦めながらフロッグをキャストしていた時、今まで吹いていた強い風が次第に弱まり、あっという間に止んでしまった。空は厚い雲に覆われ、今にも雨が降って来そうな感じになり、風が止んだために辺りが静まりかえり、鳥や虫たちのさえずりが聞こえる。「なんか釣れそうな感じだ」誰もがそう感じ始めたとき、そのオープンエリアで雷魚らしき魚の動きが見られた。それも1匹だけではなく、数匹の大型雷魚らしき魚が捕食なのか呼吸なのか分からないが、とにかく僕達の目の前で動き出した。



僕達は息を殺し、気配を消し、できるだけソフトなプレゼンテーションを開始した。リールのクラッチを返す音も抑えた。しかし、それだけ慎重にアプローチしてもその大型雷魚達は僕たちのフロッグには目もくれず、全く反応を示さなかった。姿は見えないが、目の前にいる雷魚は明らかに大きいと感じた。僕達はなんとかして喰わせようと必死になっていたが、全くダメだった。

その時、一人の仲間が僕にフロッグを貸してくれないかと言ってきた。彼は釣行中にフロッグを使い果たし、まともにアクションさせ、フックアップできるものが無かった。僕は、ちょうど自分で使おうかと思っていたトリッキーなアクションをするようにチューニングしたちょっと大きめの茶色いフロッグをその仲間に貸した。何故それを自分で使わずに貸したのかは分からないが、無意識にそのフロッグを差し出していた。


そして彼がそのフロッグを20m程キャストし、トリッキーなアクションで誘っていると、その2−3投目にオープンエリアの中央付近で「バフッツ!」という大きな音とともに雷魚がアタックした。フックアップに成功し、ファイトが始まったが、見た目ではそれほど大型な雷魚が食ったとは思えないような様子だったが、僕達はそれが大型雷魚であることを確信していた。

そして足元まで寄せ、僕がランディングしたその雷魚は丸太のように太った90アップだった。その雷魚はまだ成長途中の若い雷魚特有の魚体をしており、数年後には大台を越える大きさになるような感じがした。



その雷魚をリリースした後、僕達は次はオレだと気合を入れて狙おうとロッドを振り始めたが、それまで見られた捕食行動はパッタリとなくなってしまい、止んでいた風もまた吹き始め、空を覆っていた厚い雲もどこかへ行ってしまった。時間にして30分いや15分くらいだったのだろうか、あの神秘的な時間は終わってしまった。

あのアカメの群れのように、あの時僕たちが見たのは雷魚の群れだったのだろうか?神秘的な雰囲気の中、黒い大きな影が近づき、水面が盛り上がり、池の主が水面を割って飛び出してくるあの釣りキチ三平のクライマックスと全く同じような状況を僕達は経験した。自分には釣れなかったけれど、あの雰囲気を共有したことだけでも満足できるような本当に不思議な時間だった。

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