Thunder & Fish
高校生だった7月のある日、学校が早く終わったので夕マズメを狙って釣りに行くことにした。

平日だったこともあり、いつも一緒に釣りに行く近所の友人は誘わずに単独で行こうと思っていた。単独で行こうと思ったのには理由があった。それは友人に抜け駆けをするには絶好のチャンスだったからだ。ここで一発大物を釣って、友人との差を広げてやろうと企んでいた。

マグナムハスキーを自転車のフレームにくくり付け、ディパックを背負って家の門を出た。そして家の前の道路を右折しようとした時、なんと抜け駆けをするつもりだったその友人が自転車に乗って帰宅するところに遭遇した。
ものすごい偶然の出来事に呆気にとられている私に向かって友人が叫んだ。

「あれ!どこ行くの!」

「いや・・・ちょっと釣りに・・・」

「何言っとるのー。俺も行くわ。抜け駆けすんなよなー」

「いや・・・誘うところだったんだって・・・」

「嘘つけ!ちょっと待っとれって」

「ああ・・・」

そんな訳で敢え無く抜け駆けは失敗し、彼と釣行することになった。


「どこ行くつもりだったの?」

「D川」

「それはいいね。平日だから釣れるかもな」

自転車で行くとはいっても近所ではなく、1時間半以上もかかる。空は曇ってきており、夕立になる気配が漂っていた。僕達は自転車を漕ぐ足の回転を速めた。

フィールドに着いたのは午後4時を回っていた。空は厚い雲に覆われており、夕立が来ることは間違いないかった。気温も下がっており、釣りキチ三平のクライマックスを想像させるような不気味で何ともいえない雰囲気になっていた。

いつもの場所に自転車を停め、素早くタックルをセットしてポイントに向かった。草原のような草むらを歩いていくと黒くて厚い雲に覆われた空からは「ゴロゴロ」と雷の音が聞こえてきた。

「ヤバイな」

「周りに高い木もないし、このままだとロッドに雷が落ちるぞ」

「マグナムハスキーはカーボンだよな?絶対ヤバイよ」

雷は怖かったが、1時間半もかけて自転車を漕いできたのに、おめおめと引き下がるわけにはいかなかった。僕達は空を気にしながらもキャストを開始した。

辺りが暗くなり、ポツリポツリと空から雨粒が降ってきて、僕達のシャツを濡らし始めていた。そして雷光と雷鳴の間隔が短くなり、雷がすぐそこまで来ていることが確認できた。そろそろ本当にヤバイかもしれないと思っていたとき、浮芝を攻めていた僕のマグナムハスキーがグニャリと曲がった。寄せる間もなくアッという間に浮芝の中に完全に潜り込まれてしまった。ロッドを煽っても、ラインを引っ張ってもビクともしない。僕はラインを手繰りながら水中に立ちこんでランディングを試みたが上手くいかなかった。

あたふたしている僕を見つけて駆けつけてくれた友人にマグナムハスキーを託し、太ももまで立ちこんでなんとか雷魚のエラに手を入れてランディングした雷魚はその年一番の大物だった。



その後は全く釣れず、雷と雨が激しくなってきたので釣りを中断し、雨宿りをして休息することにした。そして、日が暮れ始めた頃、雨が小振りになったので釣りを再開することにした。

結局その日は辺りが真っ暗になるまで釣りをして、友人が2匹釣り、僕も1匹追加した。

今考えればたったの2匹づつしか釣れなかったのだが、当時の僕達にとっては大漁と言える釣果だったし、その時の様子は17年経った今でも鮮明に覚えている。もちろん僕と同じように、一緒に行った友人もその時のことをはっきりと覚えているはずだ。

釣行する前は期待に胸を膨らませ、釣行することを心待ちにし、釣行すればその1投1投に集中し、自分を取り巻く状況をこと細かく記憶していた。釣行から帰ってきた後も、その釣行について友人と何度も話しをしたし、風呂に入るときも布団に入る時も常に頭の中で反芻していた。



今でも釣り場で雷に遭遇すると、必ずといっていいほどあの時の雷の音を思い出す。そして、雷が鳴る状況下では大物が釣れると信じているため、僕たちは積極的に攻める。もちろん、その後も好結果が生まれていることは言うまでもない。

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