He likes a yellow popper
僕の古い記憶の中では、彼の枯竹色のリリーパッドハスキーの先にはいつも黄色いスナッグプルーフポッパーがぶら下がっていた。そして、雷魚を釣り上げた後、ぼろぼろになったその黄色いポッパーを取り替えることもせず、いつもワームをライターで溶かしてその空いた穴を塞いでいた。

「他のフロッグに取り替えればいいじゃん?」

「面倒くさい」

だいたいこんな感じだった。

だから彼の黄色いポッパーは黒く焦げたワームのせいで、なんだか変な色になっていた。


ある暑い夏の日、彼と電車に乗って、ちょっと遠くにあるクリークへ出掛けた。底藻が水面を覆い尽くすほどに生えており、当時の僕たちにとっては「超超超ヘビーカバー」だった。しかし、そこは彼の十八番のフィールドだった。

なぜなら、両岸が護岸されており足場も良く、クリークの全域に渡って両側に民家が建ち並び、日陰にもなっていたため一日中楽に釣りができるし、なんと言っても川幅が10mほどしかないので彼の黄色いポッパーでも難なく攻めることができるからだ。

普段から無口な彼は自分の感情を表に出すことはないが、このクリークが気に入っていることは彼の生き生きとした目からみてとれた。

「なあ、こういった底藻が超厚くなっているポイントだと、ポッパーでその藻の際でアピールさせた方が効果的だと思わないか?」と聞いても、「そんなの常識だよ」とでも言いたげな顔をするだけで返事もせずにどんどん先に行ってしまった。

そして、上流部から川を下りながら釣り続け、1時間ほど経ったところで彼のリリーパッドハスキーが曲がった。

しかし10mほど先の底藻のカバーに潜られてしまい、うんともすんとも言わなくなってしまったようだ。

「でかい?」

「分からんけどでかそう」

ラインはその当時最強を誇っていたG6ダクロンの50ポンドだったが、ラインをいくら手で引っ張ってもカバーが少しだけ動く程度で、しかも手を緩めると元の位置に戻ってしまう。

「これは無理だぞ」

「…・・」

「でかいかなあ?」

「多分」

彼が目で訴えているので、仕方なく僕が川の中に入ってランディングを試みることになった。

「お前の靴貸せよ」

「えー!」

「だって、このドブ川の底には何が沈んでいるか分からないから、裸足で入るのは嫌だよ」

「…・・」

彼は渋々自分の靴を脱ぎ始めた。

「お前のカッパのズボンも貸せよ」

「えぇぇー!なんでだよ?」

「だってパンツで入るの嫌だよ」

「カッパのズボンはいたって水入ってくるから濡れるよ?」

「いいから貸せよ」

と強引に彼のリュックのチャックを開けて中からズボンを取り出した。

嫌だなと思いつつ川に入り、カバーをかき分けて恐る恐る雷魚を手探りで探した。そしてエラに手を突っ込んで雷魚を掴み、ラインに絡んだ昆布のような藻のかたまりを取り払った。

「おい!全然でかくないじゃないか!ほら」

「ぎゃははは」

「もう!ヘドロで足が臭くなったじゃないか!」

「俺だって靴が…・・」

悪戦苦闘の末にランディングしたのは70cmちょっとの雷魚だった。

Yellow popper with him
その後、川沿いにある中学校の水飲み場へ行ってヘドロで汚れた足と靴とカッパのズボンを洗った。そして洗い終わった後は校舎の影で缶ジュースを飲みながら一休みした。

「その黄色いポッパーはでかいの釣れんぞ」

「そうかなあ…」

と彼は黄色いポッパーを手で触りながらちょっと寂しそうに小さな声で答えた。


その日も夕暮れまで釣りをした。その時代のフィールドがどこでもそうだったように他の雷魚マンを見かけることもなく、2人貸し切り状態で暑い夏の雷魚釣りを楽しんだ。

結局彼はその1匹だけだった。僕も60cmくらいのを1匹だけ釣った。アタックは何発もあったが、1匹づつしか釣れなかった。

でも僕のその1匹は彼と同じ黄色のポッパーで釣った。そして「黄色のポッパーは釣れる」これだけは言えると思った。

Yellow poppers

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